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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1483号 判決

控訴人 三和相互銀行

事実

控訴人の抗弁。

「本件預金はいわゆる導入預金であつて、昭和三二年五月二七日法律第一三六号、預金等に係る不当契約の取締に関する法律第二条に違反する違法の預金であるから、不法原因給付として被控訴人にその返還請求権はない。すなわち控訴銀行姫路支店長であつた訴外溝口一郎は、昭和三〇年秋から導入業者のあつせんにより多額の導入預金を受入れ、これに関連して幾多の貸出を行つていたが、本件預金もその一部であつて、右溝口は右支店長として、昭和三〇年一二月二二日訴外神戸タクシー株式会社取締役永田政市に金五〇〇万円、同月二四日同会社取締役藤原巻三に金七〇〇万円を貸与したが、その貸付に当つて、第三者から導入預金として、期間三カ月の無記名定期預金五〇万円六口、一〇〇万円二口、二〇〇万円一口、二五〇万円二口計一、二〇〇万円を受入れていた。しかして右導入預金は、右貸金が決済された昭和三三年七月までの間、書替継続し、或はまた他と交替していたが、本件定期預金は被控訴人が導入業者訴外浜名慶次郎の勧誘により、右導入預金の交替預金として預入れたものである。しかして被控訴人は右浜名から、同人が前示神戸タクシー株式会社から同社の営業資金を得るために預金者の紹介を依頼されている旨及び同社より相当の謝礼を出す旨告げられて、控訴銀行姫路支店に対する導入預金を勧誘され、これを承諾して本件預金をなし、同社より預金高の一割の謝礼を貰つたもので、これは特定の第三者と通じ、当該預金を担保とすることなく、特別の金銭上の利益(法定の利息以外のいわゆる裏利)を得る目的で預金をしたものであること明白で、前記法律違反の行為であるといわなければならない。」

被控訴人の答弁。

「控訴人主張の抗弁事実は否認する。被控訴人は控訴銀行を相手方として、控訴銀行が第三者のために貸金の融通をし又は第三者のために債務の保証をなすべき旨を約したことはなく、特定の第三者と通じたり或はまた特定の第三者を指定して控訴銀行と何等の約を結んだこともない。それよりもなお、預金等に係る不当契約の取締に関する法律第二条第一項の規定違反は、これに対し同法第四条所定の処罰を受くべきである外は、高々金融機関が特定の第三者が資金の融通をなすべき約束又は特定第三者のために債務の保証をなすべき約束が無効たるに過ぎないのであつて、これがために金融機関をして現実に預入れられた預金の返還義務を免れしめるものでないことは多言を要しない。」

理由

被控訴人が控訴銀行姫路支店に対し、被控訴人主張の各日時に、主張の各金額を主張の約定で定期預金したことは当事者間に争がなく、右事実によれば、控訴銀行は被控訴人に対し、被控訴人において借受債務と相殺し決済せられたと主張する預金元本五〇〇万円を除くその余の預金元本、並びに全預金に対する約定の利息に、被控訴人主張の各日時以降における遅延損害金を附加して支払うべき義務があること明かで、本件預金返還債務が商行為によつて生じたものであることは控訴人の明かに争わないところであるから、右遅延損害金の利率は商法所定の年六分の割合によるべきものであるといわなければならない。

控訴人は本件預金はいわゆる導入預金で、預金等に係る不当契約の取締に関する法律第二条に違反する違法の預金であるから、不法原因給付として被控訴人にその返還請求権がない旨主張するけれども、仮に被控訴人の行為が右法条に触れるとしても同法第四条により処罰を受けることがあるのは格別、いまだもつてわが国民生活並びに国民感情に照らし反道徳的な醜悪な行為としてひんしゆくすべき程度の反社会性を有するものとは認められないから、本件預金をもつて不法原因給付であるということはできない(最高裁第二小法廷昭和三五九月一六日判決参照)。

そうすると控訴人の抗弁は理由がなく、被控訴人の本請求は全部正当として認容しなければならない。

よつてこれと同旨に出でた原判決を相当とし控訴は理由がない。

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